鉄道マニアといえば、“鉄っちゃん”と呼ばれる男性のイメージが強い。だが、世の中には“鉄子”と呼ばれる女性の
鉄道オタクも存在する。女性にとって苦手分野“
鉄道”について、根っからの鉄子たちに魅力を聞いた。
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鉄道ライター・
矢野直美さん
月の半分は乗車しているという
鉄道ライターの
矢野直美さん(39)は、「
鉄道は人の思いを運んでくれる」という。車の免許は持っているが運転はしない。「鉄道は乗っているだけで目的地に着くし、よそ見もできる。友人とのドライブも好きですが、やっぱり私は当たり前のように鉄道に乗ってしまうんです」
鉄道に興味がない女性にも、「まずはきれいな景色、おいしい駅弁です。イベント車両や展望車両がおすすめ」とアドバイス。実際、矢野さんのまわりでも鉄道ファンは増えてきているそう。
「鉄道ではなく“旅”ととらえると、女性も旅は好きですよね。無人駅も、近所の方が掃除をしたり、人の思いが込められている。車内でも、土地の名物を紹介してくれる人がいたり、でもみんな途中下車をしたり、適度な距離感がまた楽しい」と話す声もはずむ。
札幌市生まれで札幌市在住の矢野さんは、北海道の車両を“うちの子”と呼ぶ。「北海道って、ディーゼルカーが多い。コトコト走っている姿がかわいい」と話す矢野さんこそがキュートだ。鉄子であることを珍しがられても「自分には当たり前。みんなに珍しいと言われることがおかしい」と笑う。
この企画、初めての鉄子取材が矢野さんだったこともあるが、記者の“鉄子”のイメージを変えてくれたのは矢野さんだった。鉄道好きといえば、路線に詳しく、時刻表とにらめっこ、どちらかといえば暗いイメージを抱いていた記者に、矢野さんは「車窓、出会った人などの写真を撮るのが好き。おぼんやお正月は里帰りする方などがいて、出会いや別れの季節を思うとジーンとくる」とただ一瞬の出会いに想像を膨らます。
小学生のころ、祖父母に会いに砂川駅まで初めてのひとり旅をした。「まわりの人はお菓子をくれるし、窓から見える景色は一面のたんぽぽ。黄色いじゅうたんの上にいるようだった」と懐かしむ。このことがきっかけで鉄道の魅力にとりつかれてしまった。
矢野さんが好きになる鉄道には3つの条件がある。(1)普通車両(2)ボックスシート(3)窓が開く。「地図を見ながら、この辺で海が見えるなとか、山の中に入ったなとか、ゆっくりと楽しめるので各駅停車がいい」
7、8キロもあるカメラの機材を持ち運び、「谷や山に線路があるので」と過酷な道でも撮影ポイントを探す。「困っていると、通りすがりの方が『どうした』って助けてくれたり、やっぱりふれあいがあるんです」
おじさまには懐かしいSLも、「誰かに大事にされて、お化粧されてまた走るんだって思ったらグッとくる」とどこまでも想像力豊かに鉄道を語る女性だった。
■鉄道アイドル・
木村裕子さん
鉄道アイドルの
木村裕子さん(24)は、「“オタク”っていいイメージないと思う。でも自分で
鉄オタになってから、
鉄オタ=キモイ(気持ち悪い)を打破しようと思ってブログ(『鉄ヲタだって人間だぁ!』)を作りました。明るい
鉄オタもいるんだよ」とイメージ向上をはかっている。
鉄道を“この子”と呼ぶ木村さんには“彼氏”もいる。「東京から新庄までの新幹線、400系のつばさ。顔がイケメンなんですよ名前もかっこいいじゃないですか。実家の名古屋から初めて東京に来たときにホームにいて、一目惚れしました」。この運命的な出会い以来、1年半浮気はしていない。「でも、遊んでくれないんですよね。東京駅行っても、10分くらいしかいない。だから最近危機なんですよね」
普通に聞いてしまったが、相手は鉄道だ。
20歳のころに、名古屋の新幹線で車内販売員のアルバイトを始めた。バイトを通して、車掌と販売員の恋愛を見てきたという。「私もトレインラブしたかった!でも本当に何もなくて、お客さんと仲良くなったりはしましたけど…」と悔しがる。オヤジキラーと自負するだけあって、仕事を辞めるときには、客からネックレスをもらったことも。
小さいときに、祖母が近所にある鉄橋に散歩に連れて行ってくれた。「そのころから電車は好きでした。販売員のアルバイトで時代、電車がかわいいと思うようになった」とか。
今まで乗車した鉄道は数知れず、販売員時代には1日17時間乗車も経験した。プライベートの乗車中にもヒマはない。「駅弁は邪道。乗り換えで走るので、ジーパンを穿く。行き違いの電車が何時ごろか時刻表を見たり、線路のそばの車庫で、そこに行かないと見れない車両もあるし。いろいろ忙しいんですよ」
給料の9割は鉄道関係に使うので「もやし生活、わかめ生活になります」と若い女性らしからぬ生活を送っている。自宅の部屋も、鉄道グッズでいっぱいだという。販売員風のエプロンを自作するほどだ。
ゆくゆくは、「ブライダルトレインって、車内で結婚式をひらきたい。鉄道オタクは絶対に浮気しないから、安心です。浮気したとしても、相手は鉄道。私も、鉄道好きか、理解してくれる男性がいいな。子供も、女の子は“しなの”、男の子なら“つばさ”(両方鉄道名)にします」
正真正銘の鉄子だ。
■タレント・豊岡真澄さん
マネジャーが、TBSドラマ「特急田中3号」で鉄道監修として参加、自身も鉄子として出演中のタレント・豊岡真澄さん(24)は、「マネジャーの影響で、2、3年前から鉄道マニアになった」という。
「
ガンダム、
北斗の拳、お城とか、男の子がハマるものが好きで、グッズを集めたりしてました」という豊岡さんのオタク気質を見込んだマネジャーが「一緒に移動してて、鉄道に乗るたびに説明してくる」とマインドコントロール。「でも鉄道にだけはハマらないと思ってた」と自身も鉄子になったことを驚いているようだ。
寝台特急さくらが廃止のとき、DVD「さよならさくら」に出演した。「私は、『北斗星』のナビゲーター。資料を渡されて、マネジャーから大好きっていう体で出ろって言われて調べたら、だんだんいい感じに。今はすごく好き」
最初に豊岡さんが興味を抱いたのは、車両の横に「モハ」「キハ」と書かれた不思議な記号だった。「意味が知りたくて、見たことない記号があるとマネジャーにメールしてます」とマネジャーとは師弟関係。
休日は「断然、鉄道に乗ってますよ。東京メトロの(新型車両)10000系が好き。だから有楽町線によく乗ってる。連結部分が、ドア自体ガラスになっていて、近未来的でかっこいい」。給料は鉄道関係に使ってしまうそうで、「知らない間に家にグッズが増えちゃいますね。家にはプラレールもある」と笑う。
まわりには鉄道好きな女性はいないようで「高校の同級生の男の子で、鉄道好きがいるので、珍しい車両の写メールを送ったりする。でも同年代の女の子の仲間が欲しい」と募集中だ。
彼氏にも「私、何でも教えたくなっちゃう。だから教えたるときに引かれちゃったら寂しいですよね」とやはり鉄道好きを求めている。
「鉄道は、気軽に見れて、乗れて、写真を撮れる。マネジャーさんに会わなかったら、絶対に鉄道を好きになってない。だから本当に感謝しています」と鉄道人生はまだまだ続きそうだ。
■「鉄子の旅」作者、菊池直恵さん
02年から06年まで小学館月刊誌「IKKI」で連載された「鉄子の旅」の作者、菊池直恵さんは「移動手段としては好きだけれど、いろいろ調べてまで乗るまでハマりはしなかった」という。
マンガは、鉄道に全く興味のない菊池さんが、鉄道オタクでトラベルライターの横見浩彦さんに“嫌々”鉄道の旅に連れ回されるというもの。
足かけ5年の連載で、一部専門的なことも理解できるようだが「横見さんは、最初に持っていた典型的な鉄道オタクのイメージのままだった。それが逆に嫌で、反面教師で鉄道を好きにはならなかった」とつれない。
ただ、乗ること自体は好きなようで「いなかの鉄道は、人がいなかったり、足をなげたり、ぼんやりできる感じがいいですね」と旅は満喫した。
最近では、TBSドラマ「特急田中3号」や、「鉄子の旅」も6月24日からCS放送局ファミリー劇場で放送されるなど、鉄道ブームの予感をにおわせる。「鉄子の旅」単行本(1―6巻)も35万部のヒット。「8、9歳の男の子からファンレターをもらったり、その子たちのお母さん世代、ご年配の方など、読者層は幅広い。思った以上の反応で驚いている」(IKKI編集部)と鉄道ファンは増殖しているようだ。
菊池さんも、「こういった取材を受ける地点で、鉄道マニアは市民権を得たなって実感する。女性の鉄道マニアは、今になって増えたというより、昔から好きでも言う必要がなかった。言える土俵ができたんだと思う」とブームを分析する。
だが、男女の
鉄オタは微妙に違うようで、「男性のオタクは、知識や記録制覇が頭にある。女性は、乗ることが好きなんでしょう」とみている。
「鉄道は、線路があって時間も決まっているので、縛りが多い。手ごろではなく手の届かないものだけれど、乗ればどこにでも行けるのがいいんでしょうね。鉄道好きな人は、基本的にロマンチスト。好きすぎる情熱は純情」と好印象も持っているようだが、やはり、「親族にいたら、そんなことしてないで働けって思います」と最後まで一歩ひいていた。
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【主な
鉄オタ】
・乗り鉄 鉄道に乗ることが目的。
・撮り鉄 車体、駅などを写真に撮影。
・音鉄 撮り鉄の一種で走行音などを記録。
・車両鉄 車両の形式や系列の詳細を把握。
・模型鉄 ミニチュア模型に情熱を燃やす。
・時刻表鉄 時刻表を見て、最高の乗り継ぎ方法、料金などを妄想。
・収集鉄 切符や駅名標など鉄道品を収集。
・廃線鉄 廃線になった軌道跡を訪れる。
・制服鉄 車掌ら職員の制服を収集する。
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【鉄子データ】
(1)記録
(2)何系マニア
(3)今後の目標
矢野直美さん
(1)国内の全路線6分の5は制覇
(2)乗り鉄・撮り鉄
(3)銀河鉄道のように宇宙にも線路があったらな…線路があれば、どこにでもカメラを持って行きたい。
木村裕子さん
(1)「地球1周分は乗った」。夜行列車に4泊5日した。
(2)乗り鉄
(3)北海道の鉄道を制覇したい。土地・家を購入し、マイトレインを庭に置きたい。
豊岡真澄さん
(1)関東圏、九州は制覇。「関西はまだあまり乗ってない」
(2)乗り鉄・撮り鉄・車両鉄
(3)寝台特急がなくなる前に、早く制覇したい。
ソース:
夕刊フジ