【映画】『20世紀少年』/35点
誰が誰を演じるのか、イメージ通りかうんぬん……。原作ファンをそこまでワクワクさせたのは、これを
映画化するのは難しいと誰もが直感していたからだろう。だが、本編22巻プラス完結編2巻の大長編の実写版は、計60億円の巨費を投じた三部作としてここに実現した。
1997年、失踪中の姉(
黒木瞳)が残していった赤ん坊カンナを背負い、売れないコンビニ経営にいそしむケンジ(
唐沢寿明)。この時代、世界各地で致死性ウィルスの被害者が発生、日本では正体不明の教祖"ともだち"率いる新興教団が勢力を増すなど、不穏な空気が蔓延していた。ユキジ(
常盤貴子)やマルオ(石塚英彦)、ドンキー(生瀬勝久)ら小学生時代の仲間たちと交流する中、ケンジは最近の事件、災害が、自分が子供時代に人類滅亡の様子を描いた"よげんの書"をなぞったものと気づき愕然とする。タイの闇社会で生き延びていたオッチョ(
豊川悦司)も加わり、ケンジと仲間たちは地球を守るため立ち上がる。
"ともだち"とははたして誰なのか。今は手元にない"よげんの書"の詳しい内容はどうだったか。古い記憶を寄せ合いながら、ケンジ一派は人類を滅亡から救うため地下にもぐる。
これだけがん首並べて、誰も昔のことを覚えてないとは、わすれんぼうにもほどがある冒険活劇である。ともだち教団は科学者に大量破壊兵器を作らせ、地球滅亡を演出してそのどさくさにまぎれて世界制覇をたくらんでいる。それを主人公軍団が阻止しようというストーリー。小学生の秘密基地ごっこを、大人になって全世界規模で再現したというわけだ。
こんなあらすじでわかるとおり、原作に思い入れのない、たとえば未読者にとっては、この話の何が面白いのかさっぱりわかるまい。リアリティーなどもちろんゼロ。まともな大人がみたら、バカバカしい以外の感想は絶対に出てこない。こんなのはマンガだから許される(というより楽しめる)ネタだ。昭和ノスタルジーを刺激するディテールや、魅力的なキャラクターを味わうには
映画じゃ時間がまったく足りない。
世の中には、映画に向く原作とそうでないものがある。煮ても焼いても食えないというやつだ。はっきりいって、この作品を実写にして、いいものができる可能性はゼロだ。それはスケールの問題ではない。たとえハリウッドが100億円かけても無理だろう。まともに見られる形にするには、中身をガラリとかえるしかない。だがそれをやったら、タイトルを『20世紀少年』にする意味がない。だから監督の
堤幸彦は、コンセプトとして「マンガの完全コピー」を目指した。無理して名作を目指すより、はるかに現実的で賢い選択だ。
といっても、24冊を3部作にするのだから、厳密な意味でのコピーではない。構成は大きく変わっているし、大胆に省略した箇所も少なくない。だが、印象的なカットはマンガどおりの構図にしたり、背景セットや出演者の人選を徹底的にコミックに似せ、さらにメークさせるなどして、印象的には観客に「マンガと同じだ!」とびっくりさせるように作ってある。このあたりの手腕はさすが、器用な彼らしい。
人選といえば、監督に
堤幸彦を起用したのは、これ以外ないというほど適切な選択であった。これだけのキャストを集められる人望があり、壮大な駄作と評されても(前述したとおり、それは作る前から誰にでもわかりきった話だ)傷つかぬほどのキャリアの持ち主で、今後の仕事にも影響を受けない。邦画界にそんな人材は彼しかいない。
私はこの仕事を受けざるを得なかった堤監督に同情する。だが彼は本当にいい仕事をした。見る前から期待を煽りまくる華々しい話題性を提供し、見た後もキャストのぴったり感でそれなりにワイワイ盛り上がることができる。煮ても焼いても食えない材料を使って、これだけの料理を作ってくれたら十分だ。それにしても複雑なのは、(何度も繰り返したとおり)
この原作が映画向きでないこと、傑作に仕上げることは絶対不可能ということを百も承知で、
映画のプロたる人々が60億円ものビッグプロジェクトにGOサインを出してしまうという現実。
それについて、ビジネス面での理由以外に、納得のいく答えは見当たらない。いくら儲かるとわかっていても、60億円もかけてゴミを作るという発想は、私のような庶民には驚きであり、彼らの大物振りにはただただ驚嘆せざるを得ない。
ちなみにエンドロールの最後には、まるで洋画超大作のような高ゲタ履きの予告編が上映される。これはなかなか見ごたえがあるので途中で帰らぬよう。
監督:
堤幸彦出演:
唐沢寿明、
豊川悦司、
常盤貴子公式サイト:・
http://www.20thboys.com/index.html#/index/2008年8月30日公開
http://news.livedoor.com/article/detail/3789125/