大相撲
八百長疑惑を巡り、
日本相撲協会(協会)と
週刊現代(現代)・講談社との法廷バトルが、東京地裁で幕を開けた。第1回口頭弁論では、協会側が「記事はまったくの虚偽」と主張、それに対し、現代側は徹底抗戦の構えを見せている。過去にも“
八百長問題”は幾度か取り沙汰されてきたが、いずれも曖昧な幕引きだった。今回の裁判の行方を占ってみる。
「昔は
週刊ポストで今は現代と、何年に1回かは出てくる話。この問題は、どこかで黒白をつけないといけない」。協会の顧問弁護士、伊佐次啓二氏はそう語る。
過去にも大相撲の
八百長疑惑は週刊誌などで報じられた。協会は1963年に石原慎太郎氏(現都知事)、96年には小学館(
週刊ポスト)などを相手取って刑事告訴している。しかし、前者は石原氏の謝罪で訴えを取り下げ、後者のケースは、告発者の元大鳴戸親方と証言者の死亡で嫌疑不十分による不起訴となり、真相は闇の中に沈んだ。
今回、協会は捜査機関に委ねず、自ら舵を取る民事で法廷の場に持ち込んだ。横綱・
朝青龍はじめ、大関・
栃東、
千代大海など実名報道された現役力士17人も名誉を傷つけられたとして、現代の発行元の講談社と発行人、編集人、執筆したフリーライターを相手取り、計約4億8000万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めている。
現代側も「十分な取材に基づいた記事で内容に自信を持っている」と一歩も引くつもりはない。
マスメディアの民事訴訟に詳しい田中喜代重弁護士は、「
週刊現代が記事の真実性を立証するには、
八百長の取り組みをした当事者同士の意思連絡の証拠や金銭授受の証拠、仲介役の証言など、明確な証拠を提示する必要がある。批判する側の主張も聞くなど、公平な取材ができていたかも問われる」と解説する。
記事には、「X氏」や「P氏」など匿名の関係者が登場。現代側がそうした人物の証言や取材証拠を明示できるかも気になるところだ。とはいえ、警察や検察でないだけに、資料収集や裏付け調査に限界があると田中氏は指摘。「手元の証拠次第だが、一般的に考えれば、協会が有利なのではないか」との見方だ。
東京経済大現代法学部教授の村千鶴子弁護士は損害賠償請求額に着目、「4億円以上もの請求額から協会の自信がうかがえる。現代の取材不十分を確信しているとも取れる金額」と推測する。
民事訴訟となると、“長期戦”が予想されるが、村弁護士は「一般的にこの手の民事裁判は裁判官も和解をすすめ、結果的には、世間の関心が薄らいだところで、知らない間に手打ちとなるケースが多い」と説明。一方で、「相撲離れが進む中、協会にとってはここで疑惑を払拭(ふっしょく)して襟を正したいという狙いがあるとも考えられる」と裁判の行方を気にする。
協会の伊佐次顧問弁護士は、「今のところ手打ちは考えていない。まだ刑事告訴の可能性もある」とあくまでも白星を取りにいく姿勢だ。果たして、軍配はどちらに上がるのか。