6月に開催される西武ホールディングスの株主総会に、複数の株主が
痴漢防止策を提案する方向であることが12日、分かった。提案するのは、西武鉄道有志の会会長の山口三尊さん(40)。「
痴漢行為とその冤罪(えんざい)事件を根絶できれば」と、車内への監視カメラの設置などを求める。
痴漢防止策が株主提案されるのは極めて異例。あす13日にも東京証券取引所の記者クラブで公表する。
【1本の記事】
きっかけは、夕刊フジのニュースサイト「ZAKZAK(ザクザク)」に3月中旬に掲載された1本の記事だった。そこには、「
痴漢“冤罪”父子悲痛な訴え『息子はやってない』」との見出しとともに、父親の心の叫びがつづられていた。
事件が起きたのは2月5日のこと。西武新宿線の車内で、男性会社員(21)が、
女子高生(17)の下半身を触ったとして強制
わいせつの疑いで逮捕された。会社員は容疑を否認し、父親も息子の無罪を信じて目撃者を探す日々を送っていた。
「サイトのニュースをみて、心が痛みました。容疑が事実なら強制
わいせつ罪ですが、容疑が虚偽なら被害を訴えた
女子高生は虚偽告訴罪です。どちらが真実にしても不幸な事件。こんなことが続くようでは、安心して電車に乗れないと思いました」とは山口さん。
くしくも、山口さんは西武鉄道を傘下に持つ西武HDの株主。「株主として、
痴漢や
痴漢冤罪の防止に貢献できないか」と思い立ち、急遽(きゅうきょ)、西武鉄道有志の会を2人で設立。4月1日に西武HDの個人株主328人に「電車内にカメラを設置するとともに混雑の緩和に努力すること」などの株主提案を呼びかける封書を送付した。
株主提案に必要な株数は30万株。5日後の6日には13人の株主の賛同を得て計49万4000株が集まり、10日現在では17人、計62万4000株の賛同を得ている。
「まずは『犯罪防止に関する事項は株主総会で決議できるものとする』と提案して、それから電車内へのカメラ設置などの防止策を求めていきたい」と、山口さんは力を込める。
【映画も背中押す】
折しも今年1月、痴漢の冤罪事件を題材にした映画『
それでもボクはやってない』(
周防正行監督)が公開された。無罪を主張する青年の法廷闘争を描いたもので、7年前、西武新宿線高田馬場駅ホームで実際に起きた会社員の痴漢冤罪事件が参考にされた。ちなみに被害に遭ったこの会社員は失業、一家心中未遂など人生が大きく狂わされている。
山口さんも東京郊外から電車で都心のオフィスに通う会社員。
「この映画を見て、私だっていつ痴漢の冤罪事件に巻き込まれるか分からないと不安になりました。海外では電車内にカメラが設置されているところもあります。カメラの設置にはお金がかかるかもしれませんが、安心して乗れる電車という会社の利益につながると思います」(山口さん)
西武鉄道では2005年5月から早朝の時間帯に限り、運行する電車の先頭か最後尾の車両を女性専用車両にするなど、痴漢防止の対策を講じている。
同社では年間での痴漢発生件数を公表していないが、警視庁が05年に発表した04年の路線別痴漢件数(計2201件。昨年と今年は未発表)では西武池袋線が79件で10位にランクイン。ワーストはJR
埼京線の217件だった。