米
ボーイングの中型旅客機「B787」の納入遅延をめぐり、航空会社が機材計画を再考せざるを得ない恐れが出ている。全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)は先月、再三の納入遅れを踏まえ、
ボーイング側と代替機の導入を含めた新たな機材引き渡し交渉で合意した。しかし、
ボーイング労働組合のストは3日現在も続いており、生産計画の遅れを否定できない状況だ。そうなれば燃料油高騰の切り札と期待された機材の引き渡しがさらに遅れ、経営を圧迫することにもなりかねない。
先月30日、
ボーイングの日本法人、
ボーイングジャパンのニコール・パイアセキ社長は都内で会見し、「新たに合意した納入期日からは遅れない」と言い切った。だが、スト収拾見通しを明確にすることもなく、航空各社の不安感を払拭(ふっしょく)することはできなかった。
機体を軽量化したことで燃費効率に優れたB787は、世界の航空会社の圧倒的な支持を集めた。
ボーイングはこれまでに57社から約900機を受注。日本勢では全日空が50機、日本航空が35機を発注している。だが、開発の遅れなどの影響で引き渡し時期が再三にわたって延期。とくに全日空は今年5月に1号機を受領し、8月の北京五輪に合わせて国際線に就航させ、集客に結び付けるもくろみが大きく崩された。
先の
ボーイングと全日空の新たな合意では、1年3カ月遅れの2009年8月に1号機を受領し、受領完了も当初の15年度末から17年度末にずれ込んだ。このため「B767-300ER」9機を代替機として10~11年度に導入する。
日本航空も1号機の導入を来年10月(当初今年8月)にずらし、35機の導入完了期限を13年度末から16年度末までに延期。同様に10年度から代替機「B777」「B767」を計11機導入する計画。
省エネ機B787の遅延が大きく取りざたされるのは、航空会社の運航コストを大きく左右し、収益に直結する問題のためだ。仮に今回の合意が守られない事態になれば、機材の導入を予定している航空会社の収益計画が狂うのは必至。とくに世界景気が後退局面に入り、旅客需要が減少することになれば、その影響は拡大することになる。
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【予報図】
■“脱
ボーイング”可能性も
B787の納入が再び遅れることになれば、全日空や日本航空は燃費効率の劣る代替機を使い続けざるを得ず、収益が悪化するのは確実。すでに航空各社は
ボーイングに対し、損害賠償を請求しているが、どの程度の損失額まで補填(ほてん)されるかは不明だ。しかも「ストライキによる遅延分の損害は契約上、免責となっており、賠償を請求することができない」(航空業界)ため、傷口はさらに広がる可能性がある。
一方、ボーイングにとっても信頼失墜は決定的だ。世界の民間航空機市場では、ボーイングと欧州の
エアバスが激しい受注合戦を繰り広げており、2007年の受注機数はほぼ互角。しかし、その裏にはボーイングの契約通りの納入への不安から、リスクヘッジとして
エアバス機を発注している側面があるとされる。
日本でも以前は、航空機に致命的なトラブルが起きて運航できなくなったときに備え、航空各社が複数のメーカーから航空機を購入する慣例があった。しかし、現在は日米貿易の不均衡を解消する観点からほとんどがボーイング。だが、全日空が
エアバスの新型航空機「A380」購入を検討するなど、その状況を崩す動きも出ている。今回の787騒動によって、日本の旅客機調達構造が大きく変わる可能性もありそうだ。(山口暢彦)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081003-00000037-fsi-ind